研究の際に私が思い出したいポイントの覚書です.
私たちが研究の対象にし得る学習プロセスは,再現性がない.介入型の研究をしようという場合,効果が少ないことがわかっている条件を設定して比較対象にすることには倫理的な問題がある.今考えられる最良の方略を使って,できるだけ現実に起き得る環境の中で実践し,予測できる以上の結果を(できれば)出して,そこで何が起きていたのかをできるだけ緻密に分析して,起きたことの裏に潜む認知過程を推測する,というのが私たちの 現在取り得る最も「まともな」研究方略である.
しかしこれは,いわゆる伝統的な客観科学の方略とは 異なる.異なる方略を取ることが,実社会で役立つ成果を生み,実社会で教育に携わる人々に利用可能な形での成果を引き渡すことを,おそらくは,可能にする.その研究方法として,いままでより精緻に,かつ広い範囲 と長期にわたってそのプロセスを追い,その記録を個々のケースについて将来ずっと分析の対象にできるような形で記録しつつ分析を積み重ねていきたい. これが,「できればすごい」が「あまりに大変そうだから躊躇」してしまう類の研究方略であっても,その認知科学者ならではの懸念を突き崩して,少しずつでもこういった実践研究 がなされて行くことを,新たな学習研究の出発点として提案したい.
N Miyake.